北朝鮮出身の先代オーナーのお店を引き継ぐ「 ホバン 」が絶品!

灰色のビルから体が抜け出た。朝よりずっと軽い足取りの人々がで道路を埋め尽くした。退勤は、新しい世界への出勤である。このまま家へ帰るのは何か惜しい。

どこへ行こうか?頭の中に、ぎっしりと食堂が描かれている小さな地図が広げられた。

シャツの第一ボタンを一つ外した。これから、もう会社員ではないことを知らせる私だけの儀式である。お腹がすいたしお酒も飲みたい。

だからといって派手なフランチャイズレストランや大型レストランは好みではない。

そんなところより、裏通りの奥まったところ、小さい食堂だけどオーナーのプライドがこもったところ、お客さん一人一人に真心を込めるところを探す。目を閉じて頭の中の地図を検索した。

心が決まった。

行くべきお店は鐘路3街(チョンノサムガ)の「ホバン」だ。

目次

絶品グルメ「 ホバン 」

地下鉄に乗って鍾路3街駅で降りると、すぐ前に4階建ての複合建物「 楽園商街(ナグォンサンガ) 」が見える。

1968年に建てられた楽園商街は、ロマンチックなその名前のように、電子ギターなど主に楽器店が集まっている古い建物である。

今も、色あせた夢を抱いて楽器を買いに来る人がしばしばいる楽園商街を後にして、さらに鐘路の裏通りに入らなければならない。

恋人たちが手を握って消えてしまうモーテルの向こうに韓屋が見えれば、ちゃんと着いたのだ。「ホバン」の近くに行くと、すでに人々が食堂の外に青いプラスチックテーブルを広げて座っている。

路地の間から見える空の下でお互いに酒を酌み交わす人たちの顔が自由に見える。店の中に入る前に、黄色い背景に青い文字で「ホバン」とその下に「舊ホバン」、二つの商号が書かれた看板が目に入る。

その理由を探すには、このお店の歴史から振り返らなければならない。

ホバンの歴史

最初に「 ホバン 」という名前の飲食店ができたのは1961年、光化門(クァンファムン)近くの武橋洞(ムギョドン)だった。

北朝鮮の平安南道(ピョンアンナムド)出身の社長は、その後鍾路(チョンノ)近くに6回も移転して営業した。その度に常連たちが追いかけたのは古い話だ。

今の位置に来る前、最後に営業をした所は、北村(ブッチョン)の憲法裁判所の近くだった。そして2015年6月、本来のオーナーがが引退し、ホバンはしばらく廃業することになる。

再オープンしたのは、3ヵ月後の2015年9月だった。

当時、本来の「 ホバン 」の木看板を取ってきて玄関の前に貼り、店の入り口に付けたもう一つの看板に「 舊ホバン 」という文字を刻んだ人が今のオーナー「チュ・ジャヨン」氏だ。

1974年、ホバンで末っ子として働き始めたというから、大体40年以上同じ店で人生を送ったのだ。

本来、北朝鮮出身のオーナーが北朝鮮料理を掲げて店を始めたが、いざ今のオーナーは韓半島南側の釜山(プサン)でも一番南側にある影島(ヨンド)出身だ。オーナーは釜山方言で笑いながら話した。

「 最初は、怖くて店舗をちいさくしました。」

最初のメンバーは少なかった。1963年から厨房で働いたという3歳上の「 お姉さん 」1人と共に新しく店を始め、続いて家族が一緒に働くことになった。

「 他の人と一緒に働こうとしたんだけど、できなかったんです。」

いつも敬語を使うオーナーは、娘さんと婿さんが食べ物商売に飛び込んだ理由を説明した。新しく人を採用し仕事をしようとしたら、息が合わなかったという。

その上、昼食の商売から始め夜遅くまで営業しているため、家族のようでなければ仕事が大変にならざるを得ない。

「 婿は、朝市で買い物をすることも、鷺梁津(ノリャンジン)市場で買い物することも、全てができますよ。」

婿さんはオーナーと一緒にホールを担当し、娘さんは厨房で料理することで役割分担ができている。長年の同僚と家族が一緒に仕事をするおかげで、お店はいつもジャズバンドのように息がぴったり合う。

ホバンの絶品グルメ

席に座ると、まずおかずが出てきた。缶詰の代わりに生サンマを直接煮詰めて作ったサンマの煮付けはしょっぱくて甘みがほのかで刺激的ではない。

それぞれの季節に和えた旬のおかずナムルは、この店のオーナーの腕前を十分に感じられる尺度だ。防風ナムルやチャムナムル(三つ葉ナムル)、キキョウ、タラの芽など手に入る野菜を唐辛子粉や味噌、醤油、塩でもみもみと和える。

大きなステンレスボウルに出される水キムチは、この店を象徴するおかずの一つだ。

白い白菜を縦にちぎって口に入れ、噛むと甘みと酸味がぐっと出てくる。淡い赤色に染まったスープは、山から吹き降りてくる風のように澄んでいて清涼感がある。

別にお金を受け取らないおかずが、テーブルの上にたくさん置かれているのを見ると、オーナーはどうやって利益を残すのかという疑問が生じる。

最初の注文は、やはり「 スンデ 」だ。

豚の血にオート麦や麦を入れて固めた英国のブラック・プディング(black pudding)と、豚の腸の袋に豚の血や豚肉を入れて作るフランスのブーダン・ノワール(boudin noir)と似ている韓国のスンデは、地域ごとに作り方だけでなく食べ方も少しずつ違う。

全羅北道全州(チョンラブット・チョンジュ)では、ブラック・プディングに95%以上似た血スンデを食べる。ソウルをはじめとする韓国のほとんどの地域では、さつまいも澱粉で作った春雨を入れて作ったスンデが一般的である。

ホバンのスンデは、北朝鮮出身の先代オーナーがした方式そのまま、柔らかい豚の大腸(シマチョウ)に様々な野菜や豚の血、豚内臓、肉をすり下ろし詰めて作る。

ホバンのスンデの食べ方は、次のとおりだ。

最初は、唐辛子の粉を混ぜた塩につけて食べる。肉の臭みが全くなく、豚肉特有の香ばしい脂がよりはっきりと感じられる。たまに付いてくる唐辛子の粉のおかげで、ピリ辛味も仄かに感じられる。

次は、アミの塩辛をつけて食べる。甲殻類から出たコクがスンデに染み込み、全体的に味の密度が高くなる。最後に、醤油のタレをつけて食べる。主に淡白な味のスンデに、華麗な感覚が加わる。

次に注文するメニューは、「 マナガツオの蒸し(ピョンオチム)」だ。普通、マナガツオは韓半島の南側、全羅道で好んで食べる魚である。

本来、ホバンは北朝鮮料理店として始まったが、時間が経つにつれ、韓半島各地の名物料理を全て扱うようになったのだ。お店で手作りしている豆腐を下に敷いて、その上に平たく切ったじゃがいもを加える。

ズッキーニも薄切りにしてマナガツオを大きめに切り、唐辛子粉のタレをかけて強火で早く煮るのが味の秘訣だ。

バターフィッシュ(butter fish)と呼ばれるほど柔らかい身のマナガツオは、早く火を通したおかげで形がそのままとなっている。食べ方は、箸の代わりにスプーンを使うことだ。

ご飯をすくうようにスプーンでマナガツオの身をそっと持ち上げる。おいしそうな白い魚肉がスプーンに盛られる。白い画用紙の上に塗られた赤色のように、淡泊な魚の味を背景にタレの辛味がはっきりと感じられる。

また、晩秋10月から翌年4月まで味わえるカングル(殻から取りたての水にひたさないカキ)もこの店の名物である。冬に、西海岸の干潟で人が直接尖った手鍬で採った天然の牡蠣は、養殖牡蠣に比べて身が小さいが、その分味が濃縮されている。

酸味のある醤油タレに、スプーンですくった牡蠣をつけて食べると、涼しい海風に込められた海の香りが体の中に押し寄せてくるようだ。赤く味付けして火を通したツルニンジン焼き(トドックイ)は、最初の味は辛さが強いが、噛むほど甘みが出てくる。

味の質感は、ベースギターの鈍重なリズムのように太くて力があり、食べる人の気を引き立てる。もやしとセリ、干しスケトウダラ、アサリを鍋にいっぱい入れて煮込んだ貝スープは、この店の厚い人情を感じられる象徴する料理だ。

スープよりは具が主になる和食と最も大きな違いを見せる地点でもある。鉄鍋にたくさん入っているアサリの小さな身を取り出した。すべての味をスープに吐き出したが、それでももっちりとした質感はまだ残っている。

もやしとセリを入れてさっぱりしているスープは、レベルが違う。古い友人と大声で笑いながら話して、心の中に思い込めたことを吹き飛ばす時に感じられる快感に近い。

お腹もいっぱいで、酔いがほんのりと上がる。いつものように、周辺はいつのまにか自分の家の宴のように盛り上がった酒飲みでいっぱいになった。

これらすべてを可能にするのは、月日が経っても色あせないオーナーの一途な心だ。ホバンに初めて行った日、道が分からなくてお店に電話した僕に、オーナーは「 道が複雑で申し訳ない 」と何度も話した。

そして、裏通りの道を迷い、やっと青い字が現れた時、ある老人が立って手を振っていたのを見た。その老人は、オーナーだった。今も闇の中でかすかに見えたその姿が忘れられない。

「ホバン」の楽しみ方

必ず食べなければならないメニューには、スンデ、マナガツオの蒸し物、ツルニンジン焼きが第一に挙げられる。

北朝鮮料理店であるだけに、平壌が原産のムンベ酒(ムンベジュ)を添えることをおすすめする。

米の代わりに黍を主材料として使い、味が涼しくて香ばしい。特に、スンデと相性が良い。

アクセス

鐘路3街駅 – 5番出口から200m

価格帯

スンデの盛り合わせ(モドゥムスンデ):2万8000ウォン

マナガツオの蒸し物(中)(ピョンオチム):4万9000ウォン

ツルニンジン焼き(トドックイ):2万7000ウォン

「ホバン」の注意事項

なるべく予約したほうが良い。

食事も可能だが、酒飲みの聖地であるため、人の声の騒音が大きい。地図を見ても見つけにくいかもしれない。

他のおすすめのお店

ファモッスンデクッ(光化門、クァンファムン)

典型的な韓国スンデのある境地を示す店である。

にんじんやねぎなどの乾燥野菜を春雨と一緒に入れてスンデを作る。豚の内臓を入れて味が強烈なスンデクッも良いが、スンデと茹でた豚肉の頭肉を出す盛り合わせメニューが特に良い。

ランチには売らず、ディナーだけのおつまみとして出す。ランチには会社員がたくさん訪れ、長い行列ができる。

アクセス

光化門駅8番出口から75m

サンホ(新沙洞、シンサドン)

新しい韓国料理酒場で上位圏にランクインする。ユッケやLAカルビ、テナガダコ炒め、プデチゲなど様々な韓国料理のおつまみメニューがある。

一定の金額を払う「おまかせコース」では、コースメニューの料理がが出される。韓国伝統酒やワインなど添えるお酒の品揃えが良い。

アクセス

新沙駅6番出口から730m

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